物語は終わっても人生は続く

心で見なくちゃ、ものごとはよく見えないってことさ。

眩暈

逃げ水の向こう側に女が立っていた。永遠にたどり着けない陽炎の世界の中で僕を睨んでいるような気がした。

高原の夏の午後は気怠く、避暑地のホテルのテラスに座り、僕は空になったグラスの氷を振っては鳴らし止まらない退屈を凌いでいた。

丘の上に立つ日傘を差す女の表情は逆光でよく見えない、微笑んでいて欲しいのは我が儘だろうか。

薄暗い森の木々の先にある空は高く白い雲が浮かんでいる、鮮やかなコントラストにため息が漏れる。

何もかも呆れるほどシャープでエッジが立っている、現実感が濃すぎて、居たたまれない気持ちになる。

夏の底にある陰翳に籠もり、日陰の中から世界を覗いている。僕は退屈を楽しむ余裕もなく、美しい景色を見てもロマンティックな気持ちになんてなれなかった、むしろ泣きたい気分だ。

「どうしたの」

シャワールールから髪を拭きながら出て来た彼女に声をかけられて振り返り「なんでもないよ、景色を眺めていたんだ」

と笑顔で答える。

楽しそうな彼女の無邪気な微笑みが胸に刺さって世界が揺らぐ、僕は足元に視線を落として小さくため息をつき、椅子から立ち上がった時には、恋人の顔に戻り近づく彼女を抱きしめる。僕の哀しみを彼女は知らない。