物語は終わっても人生は続く

心で見なくちゃ、ものごとはよく見えないってことさ。

誰も知らない湧水

嵐の来る気配があった、風は街路樹の葉を揺らし、木々は艶めかしいダンスを踊った。夕暮れの街に雨の匂いが満ちていく。荒れた天気に掻き乱されぬよう、僕は瞼を閉じて、綺麗な水の湧く美しい土地を想う、広葉樹林の中、清らかでキラキラと磨かれ透き通った水が湧く泉、冷たい水を掌に掬い取り、そのまま君の唇に届けたいと思った。

その時、君がどんな表情をするのか僕には判る。小さな喉を鳴らし君の身体に染みていく清らかな水、一筋の線が胸元に零れ堕ちる。それは官能的で甘美な景色だなと想像して少し照れた。

大人の女のような君が「美味しい」と濡れた唇で呟く、僕はそんな君を時間を止めて観ていたいと願った。

瞳を開き空を睨む、雨は降らず、気配のままで通り過ぎようとしていた。

ぬるい水筒の水を飲む、この水が君の身体に流れるまで何世紀かかるのか考えている。

 

 

広告を非表示にする