物語は終わっても人生は続く

心で見なくちゃ、ものごとはよく見えないってことさ。

暑く短い夏の夜

とても静かな夜で、風も止んでいた。

家路に急ぐ人を眺めながら、皆幸せなのだろうかと、無邪気な疑問が浮かぶ。

アスファルトはまだ熱く、地球が内側から発熱しているみたいだった。

予定も無く所在無く、誰かを待つふりをして、地下鉄出口の横で夜空を仰いでいた。藍色は群青に薄暮は紫に、そして、濃紺へと夜のヴェールが一枚一枚重なってゆく。月は滴るような紅色で、夏の大三角を探してみたが雲に阻まれ繋げなかった。

ぼんやりと星座を眺めるには、八ヶ岳山麓の野辺山高原がいい、ハンモックに揺られペルセウス座流星群から落ちてゆく星を数えて眠りたい、その隣には…

自分はロマンチックなだけが取り柄だな、と苦笑いを浮かべる。何故かというと、元気だったと訪ねると「元気なだけが取り柄です」と必ず答える後輩を思いだしたからだ。

果たして僕は情緒的な夢想家なのだろうか、或いは論理的なリアリストなのだろうか、シチュエーションによってどちらにでもなれる。複雑で単純で、繊細で大胆な男なんだ。

今日も求められる役割に、にこやかに微笑み任せて下さいと胸を張る。そんな自分は健気で悲しいと思う。誰にでも都合の良い人として世間を渡るから面倒なことばかり僕の前に運ばれてくる。

君に会いたいと思い、呼んだら来るだろうか、と考えて一瞬に打ち消した。

迷惑をかけてはいけないと、自分を戒めた。やっと少しだけ風が吹き半袖のシャツの袖を揺らした。瞼を閉じてやれやれとため息をつき、家に帰り冷えた白ワインでも飲もうかと歩き出す。星降る高原の夜は、きっと楽しいのだろうと考えながら微笑んでいた。実現しない未来は切ないな、そしてそれを夢と呼ぶことに気がついた。気がつかなければ良かったかなと思い、もう一度薄く笑った。

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