物語は終わっても人生は続く

心で見なくちゃ、ものごとはよく見えないってことさ。

彷徨し知らない街で空を仰ぐ

必要以上に機嫌良くはしゃぐのは限界だった。ため息をついても、上手く呼吸ができなかったから、職場を抜け出した。

行き先なんて何処でもよくて、知らない街の知らない飲み屋で、二度と会うことのない誰かに混じり、独りでビールと酎ハイを飲むことが目的だった。

亀戸駅北口で降りて、あてどもなく歩き、鄙びた蕎麦屋を見つけて「板わさ」で一合、「出汁巻き」で一合、江戸から続く作法で由緒正しく日本酒2合を呑み、蕎麦を手繰り小腹を満たした。気分の良くなったところで、並びの雑居ビルの2階にあるカラオケスナックを見つけてドアを開けた。常連とおぼしき50代の男2人がボックス席に座っていた。70代とおぼしきママさんとよく似た女性(娘?40代ぐらいチーママ)2人がカウンターに入り、僕に向かって「いらっしゃい」と口にはしてみたが、知らない男が店に入ってきたことに戸惑っているようだ。

半端ないアウェー感が気持ち良い、異物が混入したみたいな、違和感と緊張感が僕の胸を弾ませる。

カウンターに座り生ビールを注文し、チーズとクラッカーのおつまみを頼んだ。無言のまま、知らない男の歌う「チャコの海岸物語」を聴き、続いて別の男がチーママとデュエットで「ロンリーチャップリン」を歌うのを聴いた。

僕は曲の終わりに拍手を送り、カウンターで2杯目のハイボールを飲む。ママに一曲どうですかと促されたが、結構と首を振り断った。僕はおよそ2時間に渡り懐かしき昭和の歌謡曲を聴き(ほとんど知っている曲だった)もういいだろうと席を立ち会計をした。レジに僕が立つと店内が安堵する空気に満ちる。会計は2,500円だった。安くも高くもない印象だ。

雑居ビルの階段を降りて、人影少ない亀戸の路上で大きくため息をつき夜空を見上げ月を見つけて安堵する。孤独ではあるが気持ち良い風が吹く夜だった。

時々、目隠しで夜の海に飛び込むように普段の自分が選択しないことを敢えて行うことは気持ちが良い。そして自分が何処にも居場所のない男なのを実感でき満足している。

さて、これからどうやって帰るのか考えて途方に暮れた。終電を逃して、タクシーを拾うために駅へと向かい、財布の中身を考えていた。