物語は終わっても人生は続く

心で見なくちゃ、ものごとはよく見えないってことさ。

家に帰りたくなくて逢っていた訳ではない

君と逢うのをしばらく止めるよ。

「どうしたの突然、そんなこと言いだして」

僕の中では突然じゃない、君が大切だからもう逢うべきではないと思っているんだ、と嘘をついた。

「あんたは、そう言っても、わたしのところに、帰ってくるじゃん、今日だって折り詰めと缶ビール持って現れてさ、わたしと食べるご飯は美味しいって言ってるくせに」

好きな人と食べるご飯は美味しいよ、でも君の将来の幸福を僕は担保出来ない。

「難しい言葉じゃ分からないよ、嫌いだから会いたくないでいいじゃない、いちいち、めんどくさい奴」

君には敵わないな、でも君のことは嫌いじゃない、今は距離が近すぎるから少し離れてみたいんだ、年も違いすぎる、上手くはいかないよ。それに僕もたまに真人間になって分別臭いことを言ってみたいのさ、嘘は続いた。

「嫌だ、無理だよ、あんたはわたしが必要なんだろ、わたしがいないと、どこで時間を潰すんだ、家には居場所がないのだろ」

そんなことはない、何事も我慢さ、世の中の人間関係は辛抱の連続さ。妻とはすれ違ってお互いの気持ちが別の方向に向いているんだ、彼女は良い人だ、悪いのは僕の方だよ。

「わたしの前で奥さんの話をするな、あんたは悪人なんだろ、いつも醒めてて心がないからな、善人のふりをするサイコパスだよ。人の痛みなんて感じないのだろ、わたしのためだって勝手なこというな」

僕は何も言い返せない、抱き寄せようと肩に置いた手を彼女は跳ねのけた。

「優しくしないで、好きでもないのに、苦しめないでよ分るでしょ、馬鹿なの」

もうかける言葉ない、僕は背中を向けて部屋を出た。

空を見上げて月を探したが見つけることは出来なかった。