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物語は終わっても人生は続く

心で見なくちゃ、ものごとはよく見えないってことさ。

病膏肓に入る

風は冷たく、鼻が凍るくらいの寒い夜だ。

桃のピンクと漆黒の闇、僕は独りきりで夜の底を歩いていた。ああ、何故だか、ため息をつく度に君の事を考えてしまう。これは普通ではない、かなり重篤だ。

この感情の名前を僕は知っている。青年期の僕を苦しめ心を引き裂き、癒えることのない傷を残していった不治の病の名前だ。既に天然痘のようにこの世界から根絶されたと思っていた。

最初は違和感だった。何故君を目で追ってしまうのか、気がつくと君の側を彷徨き、話し掛けたりしている。困ったものだ。この病は最初は静かで哀しく美しい、進行すると嫉妬に焦がれ、暴れのたうち回り、手のつけようもないほど自分を痛めつける。冷静と情熱、何故今頃になって罹患したのか呆れてしまう。こうして、大きな運命の渦に巻き込まれるように僕は君の魅力に絡め取られ落ちてしまった。

愛おしい、だけどそれはね。息を吸って君を想い、息を吐いて君のことを考えないようにする。呼吸を整えるため、吸って吸って吐く、駄目だ君への想いが増え続ける悪循環に陥ってしまう。

君が好きだ、君の三日月の瞳が、隠した耳のピアスが、君の柔らかい手が、「チーズ豆腐」と呟く声が大好きだ。もう訳が分からない。ことほど左様に、溢れ出したこの気持ちは拙い僕の文章なんかでは伝わらない、言葉は不自由だ、情熱を隠して、冷静な大人を装う僕は不器用で、君には全てお見通しなのに、言い訳みたいな口調で君と会話をする。それはかえって恥ずかしいんだ。ごめんね、勝手だよな、困らせてるね、駄々をこねる子供みたいだ。

本当に僕よりも君は大人の女性で、君に甘えているのが解ってしまうから恥ずかしい。君の掌で転がされてるような気がするんだ。ああダメだな、特効薬はないみたいだから、諦めてこの病と付き合うしかないようだ。これでまた、明日の朝君の顔がまともに見れないな、自業自得たけど、困ったものだ。

 

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