物語は終わっても人生は続く

心で見なくちゃ、ものごとはよく見えないってことさ。

心が潰れる音3

記憶が混濁した彼は、うなされ「怖い怖い、死にたくない」と身体を震わせていた。「先生、助けて下さい」と僕を医師に間違えて「虫が背中に貼り付いて取れないんです」と訴える。

見てはいけないものを見てしまったという思いが心に湧いた。隣にいた彼の母親の表情が強張るのが分かり居心地の悪さで僕はしばらく席を外した。

春の日差しを浴びた屋上庭園は長閑で、太平洋が見渡せた。(彼の病室は山側だった)この建物の階下には沢山の病気が蔓延り、死が隣併せで存在しているのことが冗談のようなのんびりとした景色だった。

30分ほど時間を過ごし、病室に戻ると彼は眠っていた。

「私のことは判るのですが、他の方は駄目みたいです、お気をなさらずに」彼の母から告げられた時、僕がどう答えたのかは記憶にない。

安らかに寝息を立て眠る彼は、痩せても枯れても僕の憧れである彼は彼ですよ、伝えたような気がする。

 

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