読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

物語は終わっても人生は続く

心で見なくちゃ、ものごとはよく見えないってことさ。

心が潰れる音2

病院の無機質なベッドに棒のように細い男が横たわっていた。身体中に管を繋がれた彼は死の床にいた。

久ぶりに会いたいと連絡を受けて、向かった先は東海地方の町にある総合病院だった。

10年ぶりに会う彼は、頬がやせて鈍よりとした目で僕を迎えた。

「ご覧のように、俺は長くないらしい、君は今なにをしている、わりと元気のようだな」と唐突に訊ねられて、言葉を飲み込んでしまった。僕は自動車メーカーを辞めて地元で働いていると話した、金融取引で死にかけたこと、当時の婚約者は僕の後輩と結婚したことを素直に話した。

彼は微笑み、「お互いロクな人生じゃないな、俺は転んでばかりいたんだ」と苦笑いを浮かべた彼の目尻に懐かしい笑い皺が浮かんだ。「連絡をして、来てくれたのは君が2人目だよ、後の奴らは忙しいらしい」彼に昔の元気はなったし、前向きな話は聞こえなかった。僕は昔世話になった彼のことがまだ好きで、それからしばらく間、彼の元へと通う事になった。

見舞いに行く度に、昔話をし、当時一緒に居た友人達の消息を話した。病が進むにつれ彼は無口になり、不機嫌になった。家族は母親だけで、彼は結婚生活の話はしなかった。2か月が過ぎたころ彼は最期を迎える。僕は亡くなる5日前に彼に会ったのが最後となった。

広告を非表示にする