物語は終わっても人生は続く

心で見なくちゃ、ものごとはよく見えないってことさ。

無理に笑ったら可笑しいよな

鏡の前で髭を剃りながら不機嫌な顔だと思い、自分に向かって笑ってみたんだ。

ぎこちなく笑う疲れた男が不憫で、直ぐに我に返りバカバカしいと冷笑したとたんに、鏡の向こう側から睨まれた気がした。

何時でも表情豊かに頷いて、大袈裟に驚き、なるほどと感嘆し同意する。僕は人の話を聞くことが得意で、相手の好きな話を引き出しながら、気持ち良く相槌を打ち、質問をしながら相手の話に傾聴した。技術と努力の成果だ。そもそも会話は自分が何を話したかではなく、相手が何を話したかを記憶することで、反応や表情の変化から本意を読み取ることだ。

僕は相手により自分の与えたい印象や言葉遣いを変えている。役者ではないが自分の見せ方は心得ている。人にはどう映るのか、どういう印象をもたれているのか。自分は何を語り、相手から何を聞きだすのか頭をいつも巡らしている。

時には気さくで調子を合わせる気易い男で、時には話をはぐらかす、のらりくらりと喰えない男だ。

感情を殺して頷くだけの時もあれば、試すように示唆を与えて、相手に決断させることもある。

全て同じ人間の仕業で、僕に限らず世を渡り、色々なタイプの人間と付き合うのには必要な技術だ。

どんな相手にも物怖じしないが、居心地の悪さを感じる時はある。人により評価は異なり、この人だからこそと頼られることもあるが、こんな奴と忌み嫌われることもある。好かれようが嫌われようがお構いなしだ。どれも僕なのだと知っている。

時々思う、自分の本心とはなんだろうか、本当の自分の心は何処にあるのか。

長く生きてきて何を学び、何を得て何を捨てたのか。

徒手空拳で生まれてきたからには、今際の際に何もいらない。

覚悟はすれど恐怖はある、誰でも知らない場所に出向くことには気が進まないものだよ。