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物語は終わっても人生は続く

心で見なくちゃ、ものごとはよく見えないってことさ。

月が綺麗なのは満月の夜だけじゃない

寒風吹きすさぶ、駅のホームで電車を待ちながら、君の白いうなじのように白くて遠い月を眺めていた。どうせ手が届かないからとカメラで撮って僕の懐に収めてから、電車に乗った。

そして車窓に映る疲れた男の顔に気がつき、ヤレヤレと大きなため息をついた。マスクをしてたからメガネが曇り輪郭がぼやけて視界を失う。そんなコントのような自分が可笑しくて少し笑った。一緒に君も笑ってくれるだろうと思い、少し微笑んだ。

誰もが当たり前の世界の退屈に慣れて、奇跡の末に出会った運命に気がつかないでいる。あんなに美しい月が空に浮かんでいるのに、みんな手元のスマホに気を取られていた。それと一緒だ、顔を上げなければ見えない景色の素晴らしさに気づくことはない。

僕は生きている、この先前に進んでも良いことなんて起きる予定もないけど、生きているから哀しくて美しい君に出逢えた。良かったよ、死なないで。ちょっと余裕をもって格好をつけて姿勢を直して地下鉄駅のコンコースを歩いた。背中を丸めて家路を急ぐ男達に追い越されながらも胸を張ってゆっくりと進んだ。運命に逆らえずどうせ捕まえられるのなら、堂々と前を向いていたい。

迎えが朧気に見えた気がするのは、僕が酒を飲まずに正気である証拠なのさ。