物語は終わっても人生は続く

心で見なくちゃ、ものごとはよく見えないってことさ。

不機嫌の記憶

時々思い出すことは、白黒写真に写る少年の笑顔だ。彼は可笑しくないのに微笑んでいた。ぎこちなく笑う少年の強張った表情は、動物園の檻の中に入れられた動物のように臆病で戸惑っていた。なぜ写真を撮る時は笑わなくてはいけないのだろう。楽しくもなく不機嫌な少年は世界なんて滅んでしまえと祈っていた。感情を強要されるふざけた圧力に負けた自分を許せなかったのだ、その頃から僕は筋金入りのペシミストだった。

週末、家族を欺き彼女と逢瀬を重さねた。琵琶湖の畔の人気のない料亭の離れで鰻の白焼きと鰻巻で日本酒を飲んだ。食後に和室の窓の外に降る雪を見ながら彼女の膝枕でしばらくうたた寝をした。

今日もこのまま世界が終われば良いのにと願い、何処にも居場所がない僕を抱きしめる彼女に依存し、愛を乞う自分は狡い男だと呆れていた。彼女は僕のこめかみの匂いを嗅いであなたの匂いって安心するのよと言ってキスをした。僕は彼女を愛しながらも彼女に再び恋心を持つ事はできないと思い、寝返りを打って彼女から離れ大きく欠伸をする。彼女といる部屋は無音で色を失ったモノトーンの世界で死んだ後のような静けさだった。短い時間を過ごした後、最後は無言で別れた。帰りの新幹線で彼女と撮った写真を見ながら、自然に笑顔で笑う二人が愛おしく、彼女の事を想い胸の奥が熱くなった。やはり愛おしい気持ちは変わらない、でもこんな歪な人生に疲れてしまった。僕は誰と一緒に居たら良いのかな、誰かを幸福に出来るのだろうか、きっと独りでいることが最善なのだろう、家路に向かう電車の中で、家を出る日のことを考えていた。

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