物語は終わっても人生は続く

心で見なくちゃ、ものごとはよく見えないってことさ。

何故音楽を辞めてしまったのですか

明け方の夢に君が出てきた。夕暮れの街を君と僕は歩いていた。ノラ猫に誘われて、ぶらりと入った楽器店で僕はストラトキャスターを手に取り、君の求めるままに、エリック・クラプトンLaylaを弾いた。本当はベーシストなんだけどと言い訳をしたが、伸びやかで良い音が出たので満足した。

「なぜ、音楽辞めてしまったのですか」とストーレートに聞く君は、普段よりも真っ直ぐな人だ。

「就職が決まり、僕は地元を離れたし、他のバンドのメンバーも散り散りになってしまったからだよ。それにプロになる程才能もない、良い潮時だったのさ」僕の代わりに猫が喋った。

「でも、好きなら続けるべきですよ。曲を書いたり、詩を紡いだりしているの格好良いと思います。もったいないですよ」

痛いところ衝くにゃーと猫は欠伸をする。

「いずれ小説でも書こうと思ってるんだ、プロを目指すバンドの話をね、魂に響くような作品を書く」

僕はとっさに嘘をついた。もう楽器には触らないし、人を感動させる文章を書く才能はない。創作活動は終わりなのにね。

そうだそうだと猫は足の裏を舐めた。

それから君の好きな3人組のグループの話をした。熱を込めて楽しそうに話す君が愛おしかった。猫も静かに君に見とれていた。

猫を追いかけながら僕は散策を続け、湯島聖堂の暗闇で君にキスをした。そしてしばらく抱きしめた。猫は姿を隠しどこかに消えてしまった。

聖橋の上で「私のために曲を作って下さいね、それから小説が書けたら読ませて下さい。それが出来るまで、お逢いするのは止めておきましょう」

君はそう言い、僕から離れてふわりと風に乗って空へと消えていく。僕は橋を渡り御茶ノ水駅へと向かった、良い小説を書こうと決意して夢から覚めた。夢の中の君が、本当の君だったのかどうかなんて分からないけど、僕が音楽を辞めたことを哀しんでくれたのが嬉しかった。朝の準備をしながら、口笛を吹いた、かすれかすれに、love love the world♪と僕はメロディーを奏でた。