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物語は終わっても人生は続く

心で見なくちゃ、ものごとはよく見えないってことさ。

Once there was a way to get back homeward

僕が描く誇大妄想は自己抑制を奪い理知的な精神を覆い尽くすほど成長してしまった。信仰にも近い陶酔感に痺れながらやがて訪れる破滅の日を待っている。自分が価値を見いだせないものに能力を費やすことに意味を見出せず。退廃と倦怠を心に抱えながら素知らぬ顔で、僕は平気と生きている。立場により役割を演じ分ける自分が可笑しくて笑ってしまうな。笑った後は真顔に戻り苦いものが喉を通る度に、明けない冬の夜を呪う。上辺だけを滑るようなお愛想やお世辞の世界はもう沢山なんだ。仕事の上では、利益の最大化とか効率的な経営とか、ゴールに近づく最適な選択肢なんてものを、人に語り指示し競争優位の原則に従い、他人を出し抜き金を儲ける手段を考えろと叱咤し激励している。まるで後ろから犬をけしかける勢いでクライアントを鼓舞している。そんな前向きすぎる態度は自信たっぷりで信頼感と安心感を生み出し、人に語れるほどの実績を残すことが出来た。ただこんなのはまやかしで、出来る男を演じている内にそうなってしまっただけなんだ、運が良かっただけなのさ。本音では小さな会社が大手企業に勝つなんて夢物語で、職業的使命感に駆られて人材も資源も資金もないのに負ける闘いをけしかけている。局地的には勝利する場合もあるが稀なことだ、時間稼ぎとしかいえない抵抗だ、僕が語る成功事例は100社の屍の上にたまたま残った1社で、運まかせでは所詮金がある奴には勝てない。個人としては金儲けなんてくだらないし、生きていくために金に苦労し借金で死ぬなんて馬鹿なことだ。そんな困った人間が寄ってきて僕を頼り悩ますのだ。出来ることとやりたいことは相反して、ただ出来るから経営計画の策定に首を突っ込み、融資の可能性を探り助言をしたりしている。親身に真心を込めて最後まで丁寧に僕は付き合った。金なんて忌み嫌う存在なのに。そんな暮らしの連続に二律背反な自己矛盾を抱えた僕の柔らかな精神は蝕まれ、甘美な死への誘惑に身を預けたくなる衝動にかられる。死は生の背中に宿り、冷たい重さに押し潰されそうになる。僕は毎日死に場所を探している、癌が発症しても延命治療は受けない、乗っていた飛行機が海に不時着しても救命ボートには乗らない。アクシデントという名のチャンスを待ちわびている。とにかく得意とすることが一番自分の嫌なことだというのは悲劇だ。僕の理想は個人的無政府主義で、離島の集落での共同体に身を置き金に縛られずあるものだけでその日を暮らすことだ。六本木や銀座周辺を徘徊する日々とはおさらばしたい。美味しい食事もきれいな女性も捨てがたいが、もう十分堪能したよ、ありがとうそしてご馳走様。完成したモノは形が有っても無くて綻んでいくものだしその滅び方に美しさが宿るものだ。崩れ去る後には虚無が残るか真実が残るかはわからない。僕に残る唯一の救いは誰もが僕をそんな危険な人間だと思っていないことだ。仕事の正確さと健やかで優しい性格、誰からも信頼を勝ち得る人物。笑えるな、大笑いだな。強い光が当たる人物の闇が深いように、好人物を装う僕の闇は底が見えない。真実の愛の在り処を探しているから僕は生かされている、本来の帰る場所を見つける旅。その目的が果たせるまで僕はこの世界を浮遊し続ける。