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物語は終わっても人生は続く

心で見なくちゃ、ものごとはよく見えないってことさ。

ぼくを探しに3

 最初は彼女からのショートメールだった。12月のはじめに「このままじゃ冬が越せない」と一行だけ書かれていた。彼女の事情聴き電話で長い話をした。以来僕らはメールアドレスを交わし、お互いの誕生日の9 月と12月にメールを送り合うことを習慣とした。僕らは言葉を紬ぎ心を包むような優しくて長い文章を認めて相手に届けた。でも、お互いに逢おうとは言い出さなかったのは家庭を持って暮らしていたからだ、人の道に外れることは出来ない、罪も無い周りの人を傷つけてはいけない。年に2回近況を報告するやり取りは11年続いた。その頃の僕は、資本家の仲間入りを果たそうと、寝食を惜しんで投資の世界に身を置いていた。利害を持ち寄った3人でチームを組み、9桁から10桁のお金を動かし痺れるような日々を愉しんでいた。勢いに乗った我々は都内のいわくつきの物件の占有争いに失敗し組んでいた投資グループは散り散りとなった。階段を昇らされて跳び降ろされた。後で気が付いたが全ては仕組まれた罠だった。僕らのチームを纏めていた男は、自宅の風呂場で事故で亡くなり、もう一人は金を掴んだまま行方不明となった。残された僕は死を覚悟していた。子供は小さく育児に追われる妻には、そんな事実は話せないし相談も出来ない。妻は優しく心の綺麗な人で、僕が伸るか反るかの刃物の上を歩いているなんて露とも知らない。この世の最後に僕は彼女に逢おうと思った、死ぬ前に一度隣に座って海を見ながら話をしたかった。

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