物語は終わっても人生は続く

心で見なくちゃ、ものごとはよく見えないってことさ。

僕のからだなんか 百ぺんやいても かまはない5

テレビの中では大津波が暴れていた

遠い異国で起こった惨事は

他の世界の出来事として胸を痛め通り抜けるはずだった

2005年の年明けに新年の挨拶に彼の家を

訪れた僕は耳を疑った

「君の象が行方不明だそうだ、T(短髪の女性、この人が象を貰う方)さんは、現地にいるがスリランカも被害が甚大だそうだ」

彼の話によると今回の大津波で現地政府も混乱していて、当面は災害復旧が最優先であり、この状況の中でTさんは象を贈る申し出を辞退したいらしく、僕に確認してくれとのことだった

「君には申し訳ないが、目途のたたない話となった今は、金は集められない、幸い設計も見積もり段階だし、まだ引き返せる、私の判断で止めることにした」

先生、私はこの計画に賭けています、また死んだような日々には戻りたくはないんです、私が前に進む為に必要なことなのです、と彼に訴えた、私は…

「本当に申し訳ない、この通りだ諦めてくれ」

そう言って誰もが恐れる男が深々と頭を下げた

僕はその姿を見て、全て終わったことを知った

突然の災害で象を飼う話は延期(表面上は)となり、僕の象達に出会うことはなくなった

「エレファントカフェ(仮称)」は企画書だけが残り、何時かの実現を待ちながら年月が過ぎた

後で知ったことだが、スリランカに大津波が到達する前に象は危険を察知し高台に非難し無事だったそうだ、その話を聞いた時に僕はなんだか嬉しくて口笛を吹いた

あれから12年が経過し、僕の象達は17才~20才になっているはずだ

スリランカは余りに遠く未だ訪問を果たせていない

那須の建設予定地はそのまま荒れ地となり、近年太陽光発電所として稼働したと聞く

そして家族で動物園を訪れる際には、何故だかいつも象舎の前だけ素通りしてしまう

娘たちには

「パパは象さんに踏まれたことがあるから、苦手なんだ」と言っている

その横で全てを知っている妻は寂しそうに笑う

2013年に多摩動物公園スリランカ象が寄贈されるとニュースで聴き

意を決して独りで訪れた事がある

運動場で器用に鼻を使って体に砂をかける象をみながら

「こんにちは、君の兄弟たちは元気でしたか、僕は本当は君たちは

 スリランカの山で暮らすのが良いと思っているんだよ、でも縁があって

 日本に来たからには、楽しくやってくれると嬉しいな

 僕は友達にはなれないけど、君たちにシンパシーを感じているよ

 僕が何時かスリランカに渡った時には君たちの様子を話すことにするね」

と心に念じるように語り、暫くその場から動けなかった

昼過ぎから夕暮れ近くまで彼らの前で過ごしたあと

人影まばらな象舎の前で声を押し殺し独り泣いた

ごめんなさいと言いながら僕は感情を抑えきれずに滂沱の涙を流した

感謝なのか謝罪なのか判らないが「ごめんなさい」と言いながら僕は泣いた

その日を境に、利己的な考えは捨てた

金は命よりも大切ではないし

ただの数字の書いた紙きれだと思う様にした

僕の幸福は誰かの幸福のために生きることだと理解した

「僕はもうあのさそりのやうにほんたうにみんなの幸のためならば僕のからだなんか百ぺん灼いてもかまはない」

迷った時には「銀河鉄道の夜」の有名な一節を繰り返し唱える