物語は終わっても人生は続く

心で見なくちゃ、ものごとはよく見えないってことさ。

僕のからだなんか 百ぺんやいても かまはない2

暗い雲の下で

雨が降るのを待っていた

傘はなかったが

雨に打たれながら

泣きたい気分でいたから

気にはしなかった

どうせ降るなら激しく頼むと空を睨んだ

身を焦がし痺れるような金融取引の世界から弾き出された僕は

給料分の使命を果たすべく生業である仕事を黙々と続け一定の評価を得ることに成功した

ルーティンワークに醍醐味や刺激はないが良いところもあった

この仕事では突然死人が出たり、消息不明になったりすることはない、そして「ありがとう」と人に感謝されることは素直に嬉しかった

日々は変化もなく淡々と過ぎ、夜の底を蠢くむき出しの欲望とは無縁な退屈で平和な世界を生きていた

いずれにせよ、過去は不確かであり未来はより不明な時間であった

永遠に続く現在をやり過ごしながら、厳冬の世界に息を潜め穴に籠もった熊みたいに、何時か柔らかな日差しが降り注ぐ春を待っていた

そんな日が訪れることが無いことは充分承知していながら、愚かな考えは止められなかった、僕は生き残ってしまったことを恥じていた

すれ違うだけの人と運命の人は違う

前者は利害が一致した時だけの一時的な(敵の敵は味方的な同盟)関係

後者は僕に何か与え、僕も自分の何かを分け与える関係

男も女もすれ違う人は多かった

来ることもない春の日の訪れを諦めた僕は、ようやく穴から這いだし、親切にしてくれる人の好意に甘えた

生来の人懐っこい笑顔(誰もがそう言ってくれた)で人の話を良く聴き、悩みを抱える人に大丈夫ですよと励まし慰めた

あなたの気持ちは良く解ると同意を表し、笑顔で僕は味方だから安心してと頷いた

誰かを誘いながらも断ってくれることを願い

OKを貰うと溜息をついた

興味も無いのに「僕も好きです」と賛意を告げることや「あなたの気持ちはもっともだ」と受け止め怒りに同調することも、何時でも調子良く無責任に相手に合わせた

相手が喜べばなんでもよかった、僕は幸せではなくとも

誰かが僕と過ごす時間が楽しく幸せだと思えればそれでよかった、嘘であっても意味はある、僕を好きな人達をがっかりさせる事だけはしたくなかった

人前では笑顔で過ごしてはいたが心はどんどん冷えていく

自分一人助かったという負い目は夜の闇の奥深くで暗い魂を生んだ

ため息をつく度に自分の心は縮み、孤独を持て余し寂しさの余り夜の街を一晩中歩いたこともあった

子どもの頃に望んでいた自己犠牲の美徳とはかけ離れ

ひしゃげてねじ曲がりながら、上辺だけの優しさを取り繕う生活の中で、僕は本当の自分が何者なのか判らなくなっていた