物語は終わっても人生は続く

心で見なくちゃ、ものごとはよく見えないってことさ。

僕のからだなんか 百ぺんやいても かまはない1

自己犠牲の話しは好きだ

「泣いた赤鬼」の青鬼の優しさに

心を痛めた子どもの頃から

人生の目的として誰かに尽くし

弱き人々を救済する日を夢見ていた

遠い昔の話をしよう

そんな心優しき少年は長じた後、お金で人の心が動くことを知った

そして「命の次に大事なお金」という言葉に囚われ

現世的な欲望に心を奪われる

当時の僕は自分が幸せになる為には、あらゆる競争に勝ち残る事が最善の選択だと思い込んでいた

僕は利己的かつ排他的に「金の無い奴はクズだ」という理念に基づき、元来の生真面目さから、手段を選ばず人を貶め

人の道にも外れ、暴力的かつ合法的に他人の権利や資産を奪う日々を生きていた

その結果、民法民事訴訟法に詳しくなったけど

僕を諌め信頼を寄せる友人を無くした

お金で心(それは8桁の預貯金額を背景として、スマートに食事・プレゼント等に交換された)は買えるという信念を持った僕は、実際思い通りになった後で、金に転んだ奴らを軽蔑した

また僕の元を去った人達が損をしたと後悔する事を望んでいた

最低な人生なのは理解していた

ただ負け犬にはなりたくなかった

僕はある人の紹介で、似たような価値観を持った台湾出身の男と関西出身の男の3人でグループを組んだ

「 お前らは悪魔のような人間だ、少し融通してやればよかったのに、とにかくお前は人殺しだ」

僕らの金融資産が10桁を超えた頃、追証に潰れた知り合いが自死した際に

誰かが僕を非難したけど、戯れ言だと鼻で笑っていた

「億の金が動くディールは誰かが死んでもおかしくない」

と嘯き涼しい顔でシャンパンの泡を眺めていた

面白い儲け話が次から次へと僕らの元に届いた

フィリピンのタクシー会社を買ってくれとか

深圳の工場用地の権利を買う金をドルで用意してくれとか

ある国の発電施設に投資すれば、紙幣に貴方の肖像を入れるとか

嘘みたいな話まであった

そして得体のしれない僕らに銀行員は頭を下げ、融資を約束した

そんな日々の中、いつか遠くない将来に訪れる

終わりの日を僕は毎日イメージしていた

永遠にこの狂騒的で綱渡りの日々が続くとは思わなかったし

今更、真っ当な生活に戻れるわけはないと考えていた

終わりの見えない欲望の渦に翻弄され続けた僕は

遺恨を抱く誰かが雇った男により

駅のホームで入線した電車に向かって押し出される

薬を打たれバスタブに溺れるまで沈められる

路地裏に連れ込まれ何人もの男にバットで殴られる

そんな奴らが現れる日を厳かに待っていた

覚悟は出来ていた、因果は巡り僕は地獄に落ちると信じていた

しかし、不幸なことにその杞憂は突然終わりの日を迎える

ある日僕が師匠と呼んだ台湾人が部屋の風呂場で死んだ朝

関西出身の男は金と関係者リストを持って忽然と消えた

こうして僕らのグループは消滅し、そして独りになった

不思議なことに僕の元に誰かが訪ねて来ることはなかった

金も人脈も後ろ盾も失った僕に利用価値など無かったからだ

僕は金に埋もれた牢獄から釈放され門の外に放り出された

これからどう生きて行こうかなんて

何のプランもなく途方に暮れる日々の中で

ある人と出会い、人生が別の道へ転がり始めた