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物語は終わっても人生は続く

心で見なくちゃ、ものごとはよく見えないってことさ。

残響のように彼女の声が響いた

久しぶりに

君の声が聞きたいからって

メールで予告してから

電話をしたら

「どうしたの、今度は何があったの?」

と彼女は優しく応えてくれた

どうして僕が悩んでいるのが判るのって聞くと

「あなた、困った時しか私に連絡しないじゃない」

と呆れたように笑う

実はさあ、と近況を一通り話した後で

彼女は

「あなた今何の本を読んでいるの?」

「最近良く聴いてる曲は何?」

と聞いた

過去の僕は読書家で

バンドマンだったことから

彼女は必ず僕に問いかけるのだ

最近、読書はしてないな

夏には「銀河鉄道の夜」と

星の王子さま」を読み返すぐらいかな

音楽は「Waltz For Debby」をビル・エヴァンスを聞き直しているよ

「そうなのね、お義母さんは元気」

うん、兄貴と同居してるよ

「そう、良かったわ」

「あと、寂しいからって色んな人に電話しちゃだめよ わかるでしょ、大人なんだから、ちゃんとしなくちゃいけないのよ」

うんとしか、答えられない僕

ねぇ今度遭ったらさぁ抱きしめてよ

この世界に僕を留めてくれよ

と泣き言を言うと

「本当に困った人ね、いいわよ、特別に頭も撫でてあげる、ただし来世でもう一度私に会えた時にね」

と僕をあしらう彼女の声は明るい

来週、東京に来るのかい?

と訪ねた僕の問いかけには答えず

「お話出来て嬉しかったわ、次に電話するときは、嬉しい知らせを聞かせてね」と告げ

電話は切れた

僕は彼女と毎日会話を交わしていた

過去を懐かしみ

訪れなかった未来を

少し悔やんだ