物語は終わっても人生は続く

心で見なくちゃ、ものごとはよく見えないってことさ。

言の葉

空から降る想いを受け取った僕は、言葉の谷で文章を紡ぐ。想いを左手に持ち、右手で言葉を拾い上げ重さを確かめて背中に背負った籠に放り込む

小さくとも重い言葉、大きくても軽い言葉、10も拾えば詩が出来る。

空から降る想いは千差万別で、優しさ、辛さ、悲しみ、喜び。全ての想いに合った言葉はない、ただ僕の谷に落ちている言葉が少ないのかもしれない、いや、僕の能力が足りなくて見つけられないだけだろう。僕に出来ることは真摯に、言葉を見つけて籠に入れるだけなのだ。

小屋に戻りアトリエで言葉は慎重に吟味され、削り取ったり足したりと加工して磨きあげた文章を作り空に戻す。

想いが流星雨のように降り注ぐ日、新月のように空に張り付いたままの日、想いは足りても言葉が探せない日もある。そんな日には作業を諦めて小屋に籠もって音楽を聴く。そして窓から降り注ぐ想いが言葉にぶつかり光るのを眺めている。

別の谷では、僕ではない誰かが言葉を拾い上げて綺麗な文章を組み上げているから、僕は必要なのかと思うときもある。もし、君がまだ僕の文章を認めていてくれるなら、もう少し続けてみようと思う。そんなことを考えながらも通勤電車で職場へと運ばれていく、運命には抗えないな。

 

 

広告を非表示にする

捨て去ることなんて

朝目覚めた時に、ベッドの上で決意した。僕はやはり心の痛みに向き合わなくてはいけないんだと。

開店時間の30分前に店舗に電話をして、14時過ぎに来店する旨を伝えた。幸いにも営業をしていたので安心した。

休日なのに髭を剃り、暑いのにジャケットを着て革靴を履いた。

地下鉄を降りて昼間の六本木に出る、熱波に押し戻されそうな真夏の午後だった。

来意を告げたら、スタッフルームに案内された。そこで、色とりどりの集団の中から1ヶ月振りに相棒と対面を果たした。

最初は直ぐに解ると思っていたけど、そうでもないから可笑しいと思った。100に近い中から、僕はやっと相棒を救出して手に取った。何処にでもある石突きが少し曲がった傘を取り戻す。それだけで胸の支えが取れて気持ちが軽くなる。

僕を案内してくれた気怠い女の子に持って来た手土産を渡すと、意外そうに目を開いたのが印象的だった。

店を出ると通り雨、僕は得意気に取り返した僕の傘を開いて街を歩いた。雨に慌てる人を掻き分けて、ゆっくりとビルの谷間を歩く。愛情を持つものは捨てられないと思い、別れる時は逃げずにちゃんとお別れをしようと決意した。

たかが一本の傘にそこまで、時間とお金を使うのは、非合理で無駄だと思うかもしれないが、理屈で生きている訳でない、自分から捨て去ることはしたくないんだ、小さな事だけどこれは主義の問題なんだ。僕の傘を所定の傘立てに納め「世はすべてこともなし」と有名な詩人の言葉を口にする。

 

広告を非表示にする

痛みは同じさ

僕が言葉を発することで、皆が不愉快な気持ちになるのは解っている。でも同じように僕も傷を負うことを皆は知らない。

自分から望んだ訳ではないが、いよいよ孤独(気分としては孤高だ)な立場を得たのだ。随分と遠回りをしたみたいだけど、用意されていた場所だ。

真意は曲解されて伝わって、僕は口煩い嫌な奴なのだ、それで良いよ、皆が纏まれば目的は果たされる。嫌われ役か、言葉の響きは辛いし、似合わないような気がするけど仕方がない。ただ規律を守るために立場が言わせる言葉なのだ、言い訳してるみたいで格好悪いな。

君との距離を計るのも難しく、最善のバランスを取ることが出来ず何時も悩んでいる。近づかないように、不自然にならないように、それが僕らしいと言えばその通りで、僕と話さなくとも君は楽しそうだなと安心している。

僕が気にすることでもないな、君の決意を僕は受け入れて少しづつ一番遠い場所に離れていくだけだ。

広告を非表示にする

流体の不規則運動

地球3/4は海で出来ている。人間の身体の水分量も3/4の構成比なんだ。

僕らの心が揺れるのは、そんな身体を持って生きているからだと思う。

彼女にそう告げると

「涙は小さな海だったわね」

と答える

「あなたは、嵐にあって流されたら結局わたしのところに戻るのね」

君ほど…

「あなたのことを心配する人はいないのよね」

そうだよ、君がいてくれて良かったよ、君は最期まで僕と付き合ってくれるの

「あなたが望めばね、あなたみたいに困った人、わたしほっとけないわ」

ありがとう、僕は何時も君に甘えてしまうな、君がいない世界では僕は生きられないよ

「大丈夫、あなたがいないと困る人多いでしょ」

皆僕を利用しているだけなんだ。僕のことは、頼めばそつなくこなす便利屋だと思っている。誰も僕に感情があるとは思ってないらしい。自分のことしか考えていないよ、自分さえ良ければ、そんな人ばかりだ

「そうなの可哀想ね、いつも頑張ってるのにね、でも皆あなたのこと認めているのよ」

そうだけど、そうじゃないんだ

「あなたは繊細で複雑で単純、分かり易い寂しがりやさんね、わたしはいつも味方よ、それじゃ足りない」

ありがとう心強いよ、味方は一人いれば良い

「海のように心が揺れるのは、仕方がないのよ、皆そうなの、許してあげるしかないでしょ」

或いは諦めるかだな、

「あなたが思うようにすれば良いわ」

ありがとう、何時も何時までも

夏が終わったら海に行こう、そう言って電話を切った。

僕の身体の中でイルカが跳ねて、あとは静寂が訪れた。

 

 

 

 

 

広告を非表示にする

愛してください

何時も許可を貰わないと安心出来ない。僕は此処にいても良いのかな、誰かに必要とされているのかな、僕に会ったことで時間を無駄にしていないか、詰まらなくて退屈じゃないかとか、笑顔で冗談を言いながらも心の中では臆病に、何時もそう思っている。価値のない男だなんて思われたくないから、知識を身に付け、多くの人と会い人脈を作った。影響力のある人物にご機嫌を伺い相手の望む事を常に考えていた。だけど関係は対等であろうと思い、尻尾は振るような真似はしなかった。

嫌われたくないでも、好かれたいでも

なく、ただ愛されたいんだと思う。

僕を認めて欲しい、僕という存在を愛してほしい。

生存欲求に基づき、ただ寂しいから、誰かに近づき愛を乞い、人に懐いて自分の居場所を確保する。そんな猫のような生き方は、調子が良くて媚びをうっているように見えるらしい。

本当は僕も判っている、誰にも愛されてなんていないし、役割や使命を果たす道具として存在しているだけだ。都合の良いだけの便利屋だ。生きる意味としては有りだけど、幸せかどうかは微妙なのさ。

もう一度価値について想いを巡らせる。チャンスとロスについて、人々に利益をもたらす関係性について整理する。確率と統計、事実にあたり客観的な視点を持ち意志決定を行う。感情は置き去りにして、より失敗しない確実な選択肢を選ぶ。情緒に流された論理破綻は愚者の行動だと思う。

僕は何も持っていない、無くした何かを取り戻す為に生きているわけではない。

答えなんて無いけど、論理と情緒の自己矛盾を両手に抱えて愛を求め愛想笑いを浮かべる日々だ。

広告を非表示にする

呼んでいる声が聞こえる

大きくゆっくり深呼吸を三回、肩を落とすと、ため息になるから空を仰いで胸を張った。

長年愛用の傘を無くして1週間が経過した。高くはなかったし、傘の先は少し曲がってクタビレていて、防水機能も怪しい代物だ。

だけど、雨の日には僕と一緒に何処にでも出掛け、預けても忘れず一緒に帰ってきた。僕の傘は、ある生活雑貨ブランドの大量生産品で、同じ傘を持つ人も多いけど、僕にとっては唯一の傘だった。使い古して傘をまとめる部分のベロクロが駄目になり自分で取り換えたり、防水スプレーを施したりして10年近く使用していた。僕には傘を捨てる理由もなかったし、新しい傘にも興味を持てなかった。完璧に近い信頼関係を持つ相棒、僕にとってそんな関係だった。

「キミたちはキレイだね。だけど、まだ中身がない。

だれもキミたちのために死のうとは思わないはずだからね。

もちろん、通りすがりの人が見たらボクのバラも君たちもまったく同じに見えるだろう。

だけど、キミたちを全部合わせたとしても、ボクのバラにはかなわない。あのバラは、たった一輪でも、キミたち全員より重要なんだ。」

僕のお師匠さんの星の王子さまも、そう言っている。傘もバラも変わらない、そして人間も。

大切だと思う気持ちは、相手にも伝わるのだ。しばらく考えていたら、紛失した場所を思い出した。

僕の傘が此処にいるよと呼んでいる。暗い倉庫の隅で僕を待っている気がしていた。

でも、僕は引き取りに行かなかった。この機会を利用して別れのチャンスを待っていたのかもしれない、意図せぬ偶然で無くしてしまったのだと諦めることで、消極的に遠ざかって行こうとしていた。

長い時間を過ごすと、何故一緒にいるのか解らなくなる。飽きていた、もう潮時なのだ。

繰り返すがこれは傘のだけの話ではない。

こうして、僕は相棒を失い雨の日を迎えることになりそうだ。たかが傘一本の話だけど、少し切ない物語なのだ。

仕事では酔わない

社会に出てから未だかつて重要な取引や、仕事での酒席で醜態を見せることはない。いくら飲んでもやるべきことを果たし楽しむことはない。誰にも隙は見せないし、酔って本音を言う相手の話を記憶して、忘れずに今後の対応に利用している。酒席ではホストを楽しませることに徹して、自分の弱みは見せないし油断もしない。仕事なのだから当たり前だ。気を許すことはないから酒に酔うこともない。自分の役割は解っている。

今日の酒席でも、敢えて場を離れ今後の事業協力者の懐に飛び込み、助けてくれと持ち上げる。人をその気にさせるのは本気で訴えることで、機会を逃して実を取れないのは愚か者のやることだ。仕事の時間は手を抜かず、あなたが必要だと訴える。酒を飲んでも飲まなくとも本音は変わらない。無駄なく効果的にチャンスロスを無くすことだ。会がはけて集団から離れ一人になってやっと肩の荷を下ろす。行きつけのバーでマティーニを飲む、やっと酔いが身体を周り大きくため息をつく。何故皆僕のように出来ないのか、不思議に思う、仕事で酒を飲むとがっかりする事ばかりだ。もう少し本気で相手と向き合うべきだろう、誰が金を出したのか分かっていないね。その人の真心を受け止めなくちゃだよ。

広告を非表示にする