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物語は終わっても人生は続く

心で見なくちゃ、ものごとはよく見えないってことさ。

目を閉じると波の音が聞こえた

用意していた言葉を告げて、ほっとした反面、寂しさが胸を満たした。

僕は唯一に近い味方を失い、代わりに孤独を手に入れた。これからは漠然とした孤独と向き合う対処の仕方を学ばなくてはいけない。

向き合って対峙したものとは厳しく真剣に接するのが僕の主義だ。軽はずみな行動で職場の志気を低下させることや組織の信用を落としてはならない。敢えて親しい人と離れ、世界を狭めて生きにくくすることは、自分への戒めで、背負ったものを運ぶには仕方がないことなのだ。そしてそれは相手の名誉を守ることにも繋がる。やはり死にぞこないが、楽しみなんて望んではいけなかった。久しぶりに後悔と自己嫌悪に苛まれている。

仕事関係の酒席の後、移動の電車で少し眠った、遠くから風にはためくコートと潮騒の音が聞こえてきたような気がして、より強く目を瞑る。あの日僕は幸せだった、海を見つめる君の横顔を見ていた僕は幸せだったと思った。この風景をこれから何度も思い出すのだろうと確信し、目を開けて電車の窓の外に広がる闇を睨みつけ今日を終える。

 

海を想う

人と海の共通点について思い巡らしている。

地球における海水と人間の身体の中の水分の割合はおよそ70%だ、人の中には海があるのだ。

海水の塩分濃度は3%、胎児が浮かぶ羊水と同じ濃度である。

一分間に波が打ち寄せる回数は18回、人が一分間に呼吸をする回数も同じく18回。

海は何処までも広く大きいものの例えだ、樹海、雲海、人海戦術、血の海、少しバイオレンスだな。海にまつわる名言の中では、

「なみだは人間の作るいちばん小さな海です」という寺山修司の言葉が好きだ。

一粒づつの涙を集めて大海を創るまではどんなドラマがあったのか考えるだけで切なくなるね。好きな女の子の名前を海に向かって叫んでことは無いと思う、本当はあるけど、無いことにしておこう。

海の無い土地に生まれた僕は、海辺の風景や臭いに恋い焦がれのかもしれない。

僕は明日海に行く。

 

 

 

 

 

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ねぇ少しの間手をつないでくれないか

温もりを感じると安心するから、同じ体温になるまで手を繋いでおくれよ。僕は疲れてしまってヘトヘトなんだ。あらゆる人間関係に、存在することの軋轢に疲弊し擦り切れて肩を落として電車に揺られている。願いはゆっくりと安心して眠ることだ。君の胸に鼻を押し付けて甘えて頭を撫でて貰いたい。

叶わぬことを諦めきれない僕は駄々っ子みたいで恥ずかしい、意地になるようなことでもないのに、何にこだわっているのだろう。自分にも解らない、僕は何でも知っている訳ではない。

寂しいと誰かに会いたくなるけど、寂しすぎると誰にも会いたくないって思う。薄いガラスに包まれた無垢な心が所々割れて刺さって痛いんだ。だけど弱っているところは見せたくないから平気なふりをしている、誰も気にしてないのにね、可笑しな人だろ。

もし君に憐憫の情というものが有るのなら、泥のように眠ろうと願う僕に子守歌を歌ってくれないか、添い寝をしながらゆっくりと優しく背中を叩いてくれないか、僕は子猫のようにクークーと甘えたいんだ。大人なのに可笑しいだろ、孤独とはこんな感情を胸に留めて生きることなのだ、勿論、平気な顔をしながらね。

 

Life

真夜中の街の静さ、漆黒の空に穴が空いたように星が煌めく、木星とベガ、夏の星座が見え始めている、風に乗って遠くから君の声が聞こえたような気がした。

結局、あなたは誰のことが好きなの。

笑顔が素敵で可愛い女の子が好きなんだ、だから君が好きってことさ。

嘘つき、あなた誰にでも優しいから他の娘にも同じこと言っているのよ、きっと。

確かに世の中には様々な女の子がいる。魅力はそれぞれで、美しさもスタイルも笑い方もみんな違う、僕とデートする女の子は可愛くて愛おしいお姫様なんだ。そして人と会うことで僕は知らないことを学ぶことが出来る。だから君に感謝している、それに今目の前にいるのは君だろ、だから君のことしか考えられないよ、本当さ。

なんか騙されているみたいね。沢山の女の子と秘密を持つことに罪悪感を抱くことはないの。

あまり考えたことはない、僕は厭世的で人格が破綻しているからかな、理屈で感情を押さえることは、人間社会が作り出したまやかしさ、宗教や教育は権力者が管理し易い人間を作り出す手段だろ、僕は枠には嵌りたくないんだよ、それにお互いに愛があればそれで良いだろ、何も悩むことはない。

あなたが言うと本当のように聞こえるからずるい人ね。

納得しないなら、君は僕を嫌いになれば良いだけだよ、そうやって去って行くのが倫理観を持った立派な人間なのだろ、僕は追いかけないよ。寂しいけど分かり合えなかったってことさ。

あなた、私の気持ちを知っているからそんなことを言うのね、私はあなたの幸せしか考えていないのよ、悪い人ね。

ありがとう、僕もそうだ、ただこんなことに付き合わせて申し訳ないと思っている、僕は誰かの人生を台無しにするようだ。僕に会わなければ君はこんな気持ちになんて成らなかったろ、ごめんね。

謝らないで私が選んだ事よ、自分を悪くいわないのよ

 彼女は何時も優しく正しかった、そして僕を理解してくれた人だった。流れ星が落ちていく空の先には彼女の住む街がある。僕が生きている限り彼女のことを考えない日々はない。

 

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東京をよぎる桜月夜、こよひ逢ふ人は...

「あなたの考え方や会話が面白くて、一緒にいると時計が故障してるみたいに時間が早く過ぎていくわ、あなたって何時も一生懸命で、誰にも優し過ぎるから疲れてしまうのね、無理しないでと言っても、こんなの無理じゃないって言う人だし、私あなたの体調を心配しているのよ」

お別れをする前に、八重洲中央口の改札の前で彼女は静かにゆっくり僕に語った。

確かに疲れは溜まっていた、背中に張り付いた痛みは取れず、鎮痛剤を飲みながらベッドにうずくまる夜を過ごしていた。疲れているし元気では無いけど、信頼して心を預けられる彼女だから、自分を取り繕う必要なんてない、素のままでも許してくれると思っていた。今日僕は、相槌しか打っていないような気がするよ、それに無理なんてしないよ、自分が出来ることしかしていない、いつも僕の体調を気にしてくれてありがとう、格好の悪い生き方だろ、君は僕を良く知っているから呆れているだろ。

「そうね、あなた自分に厳しい人だから、そう言うと思ってたわ、私これでも、あなたに会う時は毎回緊張するのよ、嫌われたら嫌だなって思いながら来てるのよ。でも一緒にいると、ほっとして安心出来る、笑ってるあなたが好きよ。それに全然変わらないなって思うの」

僕が?

「ううん、私がよ。あなたに会っている時、初めてあなたが微笑んでくれた日のように、ドキドキしてソワソワしちゃうのよ、変でしょ」

いや、可愛いと思う。

「ありがとう、おばさんなのに、本当にそう思うの」

君は君だろ、何も変わらない。それに僕も立派なおじさんだ、しかも、疲れたおじさん。おじさんは人生に疲れる、そしてくたびれてこそ一人前だろ。

「楽しい人ね、昔から変わってるところが、変わらないから素敵よ」

褒められてるのか、からかわれているのかわからないな。そうだ、一つ分かったことは、言葉は心を超えることはない。気持ちを伝えようと尽くすのは心なんだ。ってことさ、君が言いたいことはそんなところだろ。

「あなたがそう思うのなら、私もそうよ、私達はナイフとフォークみたいな関係なんでしょ」

違うよ、 破れ鍋に綴じ蓋さ、古ぼけて壊れて傷つきながらもピタリ合う良いコンビさ、君には説明が要らないはずさ。

「そうね…」

彼女は少し沈黙を置き、

「あなたもう行かないと、今日は振り返らないでね、私も見送らないから」

もうそんな時間か、寂しいけどじゃあまたね、と声をかけて僕は改札に向かって歩いた。5mほど進んで振り返ると、彼女と目が合った。彼女は何時も見えなくなるまで僕を見守てくれた。出来ないことを言って、強がらなくても良いのに…そう思った瞬間、体から感情が溢れて僕は駆けより彼女を抱きしめた。別に誰が見ていても構わない、頭上からミサイルが堕ちてきても気にしない、好きだよと告げて彼女を強く抱きしめた。彼女の体は冷たくて僕の良く知っている甘い匂いがした。君は全然変わらないなって僕は呟くと

「さっき言ったはずよ」

と彼女は微笑んだ。

耳元で囁くように静かにゆっくりと

もし僕に愛について語る時間を与えてくれるのなら、僕の信じる愛の形について伝えたい。愛は静かな信用だと僕は思う。親しいという気持ちから築き上げられる心の形なのだ。愛とは本当に、本当に本当に誰かの幸せを願うこと、或いは全てを受け入れ、相手の人生の安寧を思うことなのだ。何が出来るかではなく、相手の存在を生活を、かけがいのないものだと願い心を配ること。

そして、失いたくないと思う気持ち。君を失望させられるか、泣かせられるか、さようならと言えるか、うそをついて傷つけられるか、僕にはそんなことは出来ない。愛する気持ちは軽率で浮ついた感情ではない、相手の事を思いこの身を炎の中に投げ込んで寒い夜を暖めること、夏の日差しを避ける庇になって灼熱の太陽に焦がされること、そんなささやかなことを気付かれずに行うこと。僕に出来ることはこれぐらいだ、僕の愛についての見解はこんなところだ。ねぇ君が知っている愛の形は僕と同じなのかな、違っているのなら教えてほしい。君の信じる愛の形を受け入れ、僕は完全無欠な愛を完成させたいと思っている。ご承知のように僕は何時も本気でそう思っているんだ。

言葉と気持ちは一致しない

君と会っている時も会わない時も、嘘偽りのない心の内側では何時でも愛の言葉を叫んでいた。誰よりも君が好きだ、大好きだ、本当に好きなんだ。君が微笑むだけで足元の地面が裂けて奈落の底に落ちる感覚だ。自分が墜ちていくのか飛んでいるのか解らず全て君に吸い込まれていく。僕はコントロールを失っている。でもそうは見えないのが人生経験と大人の余裕というものさ。

僕の気持ちは君に伝わっている、君の気持ちは…

君が望むのなら、全てを与え全てを失おう。君の為になら進んで悪になる。世界中の綺麗な花を贈るように君を慈しみ、出来る限りの力を使って君を悲しませるもの、悩ませるものをこの世から消し去ってあげる。

でも、実際できることは目の前の害虫駆除ぐらいかな。

愛してくれとは言わない、ただ君を愛し続ける僕の意志を尊重してくれ。

そんな言葉を胸を張って言えたら良いのに。

僕は君を悩ませないように、君を好きに成りすぎないように想いを控えているんだ。

君のことを意識しないように仕事に打ち込んだり、他の女性の話をしたりして、君には気のないふりをしている。君に気持ちが惹かれていかないように、君が僕に振り向かないように近すぎた距離を調整して、君を奪い去らないように我慢しているのさ。それは寂しいけど、僕の使命なのさ、君は大切な人だから、人生を狂わせたくない。僕はまだ引き返せる。

そうはいっても君に好きになって貰いたいな。君の前ではフラットでニュートラルな自分でいたい、年齢も立場も忘れて飾ることも自分を誇ることもなく、ただの一人の男として一緒にいたい。

君はそれを許してくれる心の豊かな人で、垣根を設けず僕の話を聞いてくれる理解者だ。そんな君に甘えている。

君が僕の住むこの世界にいる限り、愛しいよ可愛いねって100万回告げるつもりで君に会いたい。君はそんな僕を微笑みながら受け入れてくれるのならば至上の幸せだ、この世に生まれてきた意味がある。なんて思っているのさ、馬鹿な男だよ。